読書の秋に読みたい、私の大好きな物語。
『ムーミン谷の仲間たち-目に見えない子-』をご紹介します。
こんにちは。
Re:CENO TOKYOスズキです。
いよいよ季節も秋になりました。
外に出ると、落ち葉の蒸したような
独特な秋の香りがしてきます。
もの悲しいような、懐かしいような。
そんな時に、ふと思い出す秋にまつわる
お話があります。
今日は、読書の秋にぴったりの、私の大好きな
ムーミンの本から、<目に見えない子>という
お話をご紹介します。
雨降る秋の日に、目に見えない子<ニンニ>は、やってきました。
このお話は、みなさんも知っている
フィンランドの作家トーベ・ヤンソンの書いた
『ムーミン谷の仲間たち』の中のお話です。
すずしい秋の雨降る日に、目に見えない子・ニンニ
は、ムーミンの家に連れてこられました。
ニンニは、ムーミン家に来るまで、
毎日、毎日、一緒に住んでいるおばさんに嫌味を
言われ、いじめられていました。
心に傷を負うごとに、
だんだん姿が見えなくなってしまったのです。
そこで、どうにかニンニの心の傷を癒すことが
できないかと、ムーミンの家に連れてこられました。
姿の見えないニンニには、銀のすずが付けられ、
チリン、チリンという音だけで存在を示していました。
姿の見えないニンニに、
ムーミン一家は、とまどいながらも、
それぞれの解釈の仕方で、ニンニを受け入れます。
そうすると、なんと次の日には、足が見えるように
なりました。
みんな、それだけでも大喜び。
だけど、言葉も発しない。
そして、笑わない。
遊ばない。
そんなニンニに、ムーミンやミィは、
どうやって関わって良いかわからなくなり、
そのうち、あまり気にも掛けなくなっていきました。
ムーミンママの無償の愛に、ニンニの心は少しずつ変化していきます。
そんな中、ムーミンママは、いつもニンニを
やさしく、そして自然に見守ってくれます。
そしてママは、
おばあちゃんから受け継いだ古い手帳の中に、
「人々が霧のようになって、姿が見えなくなって
しまった時の手当て」
を見つけます。
さっそくニンニのために、お薬を作り飲ませました。
だけど、即効性は無いようで、なかなか効果は
現れません。
そこで、ニンニに、ママのお気に入りのピンクの
ショールで、洋服とリボンを作ってあげました。
焦らずゆっくりと、みんなに関わるのと
同じように、ニンニに根気よく接し続けます。
ムーミン谷の秋は、自然が豊かです。
この季節には、みんなで、森にキノコや、リンゴを
採りに行き、それをママがおいしい料理に変えて
くれます。
そんなママの事をニンニは大好きになります。
そして、ママの後ろをチリン、チリン。
と、いつもニンニは付いていくようになりました。
ニンニの心が開いたのは、
大好きな人のために動かなければ!と気付いた時でした。
そんなある日のこと。
ムーミン一家は、冬になる前に沖に出している
ボートを引き上げるため、みんなで海へと出かけます。
いつもの通り、
みんなの後ろをチリン、チリンと付いていくニンニ。
そこで、初めて見る大きく果てしない海を見て、
怖くてシクシクと泣き出してしまいました。
そんなニンニをよそに、
ムーミン一家は、ボートを陸へと引っ張りあげました。
ママは、桟橋に腰掛け、冷たそうな海を見つめています。
そして、ちっともおもしろい事件が起こらないのね。
とポツリと言いました。
そこで、ムーミンパパとムーミンは、
ちょっとした、おどけたジョークのつもりで、
ママを海へと突き落とすフリをしました。
それを静かに見ていたニンニ。
本当に、ママを突き落すと思いビックリします。
すると、ムーミンパパのしっぽに、
ガブリと噛みつきました。
思わずニンニは叫んでいました。
『おばさんを、こんな大きいこわい海に
つきおとしたら、きかないから!』
それに驚いたパパは、足を滑らして海へと
落ちてしまいます。
それを見て、みんな大笑い。
ニンニの姿は、いつの間にか見えるようになっていました。
誰にでもある不安で悲しい気持ち。それを解決してくれるのは・・・
このお話を読んだ時、ニンニの存在は、誰にでもある
不安で悲しい気持ちの象徴だと感じました。
この不安で悲しい気持ちは、一旦傷ついてしまうと、
なかなか1人では解決する事ができず、長く長く
傷を癒すのに時間がかかってしまいます。
このお話が好きな理由は、
この悲しい気持ちに対する解決法を
今まで読んだどんな本よりも、的確に示している事。
そして、この本が、小さな子供でも読める
大好きなムーミンの本だった事です。
一見、ミィやムーミンは、
ニンニをほったらかしにして、冷たく感じる人も
いるかもしれません。
だけど、人の痛みにどうやって関わったらいいか
解らない人が、ほとんどだと思います。
関わると、もっと傷つけてしまうかもしれないから。
解決したのは、
おばあちゃん直伝の薬のおかげではありません。
いつも通りに、生活を変えずに受け入れてくれる人。
そして、自分のためを思って考えてくれる人を守ろう
とする、強くて自然な気持ちが、いつの間にか自分の
傷を癒してくれるのです。
これがあれば、
ニンニには、銀のスズはもういりません。
大事な事に、気付かされる大好きなお話を
ご紹介しました。
他にも、たくさんステキなお話のあるムーミンの本を
読書の秋に、ぜひ読んでみてください。
『ムーミン谷の仲間たち』
トーベ・ヤンソン/著
山室静/訳
講談社文庫/発行