天井照明「SHIF CEILING LIGHT」の企画経緯と
コンセプト設計についてお話します。
こんにちは。ヤマモトです。
Re:CENO productから、初となるシーリングライト
をリリースします。
シーリングライト(天井付け照明)は、天井と一体化
する様なフラットタイプが一般的です。
フラットなシーリングライトは、よく言えばシンプル
ですが、悪くいえば、実にそっけなく、インテリア性
の低いものです。
今回の製品は、ボール型シェードを採用し、天井家具
を覆うように紙布(しふ)で作ったソケットカバーを
配して、意匠デザインを高めることを目指しました。
ダイニングからリビングを見たときにも、可愛らしさ
を感じられるシーリングライトに仕上がりました。
そして、日本の住宅事情から発生する「不」について
解消する工夫を入れ込んだ製品でもあります。
本日のマガジンでは、この新作シーリングライトの企画
経緯とコンセプト設計を紐解いていこうと思います。
リビングには、シーリングライトを。
ダイニングには、ペンダントライトを。
天井照明には、シーリングライトと、ペンダントライト
の2種類あるのをご存じでしょうか。
シーリングライトとは、天井に張り付くように設置
する照明のことです。
英語で「天井 = シーリング」ですので、そのままの
意味ですね。
代表的なシーリングライトは「フラットタイプ」が
圧倒的に多く、このタイプがリビングに付いている
ご自宅も多いのではないでしょうか。
ちなみに、僕の実家も、母の「明るくないとイヤ」と
いう一存で、昔から、これ一択です。
そのほかのタイプとしては、リセノでも取り扱いの
ある「スポットライトタイプ」や、
「ボールタイプ」などがあります。
どのシーリングライトも、見てわかるとおり、基本的
に天井に近い位置にくるように設計されています。
リビングの照明の下は、人が歩く導線と一緒になって
いるため、ペンダントライトだと、頭をぶつけてしま
うため、ぶつけないように天井に近い位置に照明を
付けるという理由からです。
一方、ダイニングには、ペンダントライトを付けます。
「ペンダント = ぶら下がっている」が語源で、コード
などで目線の高さくらいまで吊り下げられているのが
「ペンダントライト」です。
ペンダントライトは、ダイニングテーブルの真上に
吊るしますので、歩く導線とは切り離されています。
つまりは、頭をぶつける心配がないので、ダイニング
には、ペンダントを吊るすことができます。
このような理由から、
リビングには、シーリングライトを。
ダイニングには、ペンダントライトを。
というのが、天井照明の基本です。
こちらの動画でも、詳しく解説しています。
【動画】センスのいらないインテリア|リビングにはシーリングを。ダイニングにはペンダントを。
「ペンダントライト」に比べて、
選択肢が少ない「シーリングライト」
さて、シーリングライトとペンダントライトの見た目
と、設置場所の違いをご理解いただけたと思います。
それぞれのライトは、設置される高さゆえに
- シーリングライト = 天井に近く、あまり目にしない = 種類やデザインが少ない
- ペンダントライト = 目線にあるため、よく目にする = 種類やデザインが豊富
という現状があります。
北欧の著名な照明ブランドである「ルイスポールセン」
や「フリッツ・ハンセン」「アルテック」「マジス」
なども、揃ってシーリングライトを取り扱っていません。
これには、さまざまな理由が考えられますが、僕の
見解では、天井からの灯りよりも、フロアやテーブル
の灯りを優先する文化の違いや、天井高に起因する
住宅事情の違いが大きいのかなと思います。
日本は、格別に天井からの灯りを重視する文化です。
このあたりの歴史は、こちらのマガジンでも紐解いています。
「BRASS FLOOR LIGHT」の企画経緯とコンセプト設計についてお話します。
ここから分かるのは「日本と異なり、照明に長けた
文化をもつ北欧の照明ブランド」でさえ、シーリング
ライトはデザインしておらず、選択肢が非常に少ない
という事実です。
必然的に「シーリングライト」に不朽の名作はなく、
暮らしで目にすることも限定的なので、ペンダント
ライトに比べて、インテリアの中でおざなりにされが
ちなのです。
せっかく家具やインテリアにこだわってお部屋作りを
楽しんでいるのに、リビングの照明がイマイチ気に
入るものがないのって、悲しいんですよね。
僕自身も、割とシーリングライト迷子だったりします。
シーリングライトのデザインを考えるうえで、
実はもう1点、大きな問題が隠れています。
また、シーリングライトのデザインを考えるうえで、
実はもう1点、大きな問題が隠れています。
それは「天井器具」の問題です。
照明を付ける「天井器具」には、複数のタイプがあります。
どの天井器具であっても、照明側についているプラグ
を天井器具に「カチッ」と付けることで通電します
ので、基本的な機能はどれも一緒です。
天井器具にさまざまな形状があるのは、おそらく専用
規格がなく、住設メーカーがそれぞれに作ってきた
からだと推測できます。
耐荷重を高めるために、フック(耳のような部分)が
付いている「ローゼットタイプ」があったり、最も
簡易な仕様の「角型引掛シーリング」があったりと、
住宅によって、様々です。
天井家具のそれぞれのタイプを見ていただくと分かる
とおり「直径と高さ」が、それぞれ異なります。
また、上記の5タイプは代表的なものですが、例えば
「丸形引掛シーリング」でも、古いものと、最新の
ものでは、微妙に直系や高さが違っていたりします。
そして、この「色々ある」のが、シーリングライトの
デザイン設計において、とてもやっかいなのです。
様々なサイズの天井器具に対してシーリングライトを
付ける時に、どの器具でもすべて覆い隠すような
「フラットタイプ」のデザインなら良いのですが、
ボール型ライトのように、ソケットカバーにデザイン
性を持たせるにあたって、このバラバラした天井器具
がアダとなり、なかなか製品化しづらく、こんな風に
ソケットカバーが足りなかったり、
フックを隠し切れなかったり、そもそも付けること
さえ出来なかったりもします。
ちなみに、さきほどから例に使っているリセノの販売
製品含めて、世の中に販売されているボールタイプの
シーリングライトは「ローゼットタイプ」に対応して
いるものはありません。
説明書には、こんな風な注意書きがあります。
フックが飛び出しているために、ソケットカバー部分
がはまらないのと、埋め込みタイプは、器具の高さが
低すぎて、こちらもソケットカバーが入らないからです。
仮にフック付きの天井器具に対応するには、こんな風
にソケットカバーを太くしないといけませんので、
デザインが崩れてしまいます。
(画像を合成して作っています。)
また、デザインが崩れるだけならまだ良いのですが、
「引掛埋込ローゼット」の薄い形状のものに取り付け
るためには、ソケットカバーを最初から低く設計して
おかないと、そもそも取り付けられません。
逆にソケットカバーを低いものを標準とすると、その
他の天井器具の場合には、天井との間に隙間ができて
しまいます。
これらの理由で「取り付けできませんよ。注意して
くださいね。」としているわけです。
それぞれの天井器具に合うように、いくつもタイプを
作ることもできるといえばできますが、価格が跳ね上
がってしまうのと、購入した方が引っ越しをする時に
次の住宅では、天井器具のタイプが違う場合に結局
使えなくなってしまうという問題も発生します。
このボール型ライトは、国内メーカーの製品ですが、
デザイナーさんが苦渋の決断で、ローゼットを不可に
することで、なんとか製品化に至ったのではないかな
と、勝手に想像しています。
個人的に、自宅でも採用するほど気に入っているの
ですが、天井器具が合わないために、賃貸ながら業者
さんに工事をしてもらって、付けています。
ボールタイプのシーリングライトは、フラットタイプ
に比べて、デザイン的に可愛らしく、控えめながらも
リビングの照明として素敵だと思います。
まとめますと、さまざまなタイプの天井器具に合う様
にするためには、ボールタイプは形状デザインだと
とても難しく、引っ越しまで視野に入れると、購入に
躊躇してしまいます。
なので、
「なんとかボールタイプをリビングに入れられる様に
したい。しかも、いろんな天井器具で使える様な
仕様で作りたい。」
こう考えたのが、オリジナルのシーリングライトを
作ろうと思ったきっかけです。
ボール型を、様々な天井器具にフィットさせたい。
コンセプト設計は、決まりました。
さて、求めるシーリングライトの要件が、固まってきました。
まとめると、
- すべての天井器具にフィットしなくてはいけない
- シーリングライトとして、デザインの良いものを
といった感じです。
それぞれに工夫を凝らしましたので、順を追って
紐解いていきたいと思います。
様々な天井器具に、対応を。
高さが可変する「専用ソケット」を作りました。
さて、シーリングライトとして、ボール型が素敵だと
いう方向性は、決まりました。
ただし、それを実現するためには、最大の難関である
「天井器具の形状に合わせて、ソケットカバーの
サイズがさまざま必要」の解決です。
おさらいすると、
自宅で使っているこちらのボール型シーリングライト
を、すべての天井器具に対応させるための問題は2つ。
1つ目は、真鍮部分がスリムなので、フック(耳)付き
ローゼットの場合、フックがはみ出してしまうという
「直径」の問題。
2つ目は、真鍮部分の高さが固定なので、天井器具の
高さが変わった場合に、天井と真鍮の間に、隙間
が出来てしまうという「高さ」の問題。
この2つです。
「高さ」と「直径」の2つの問題をクリアした点に
ついて、ひとつずつ紐解いていきます。
それにしても、毎度、解説が長くなってしまって、
すみません。
問題1:直径問題の解決
直径に関しての問題は、複雑ではありません。
フック(耳)のついた天井器具が最大直径ですので、
ソケットカバーの直径を、それ以上にしておけばOKです。
ただ、そのまま太くしてしまうと、かなりぼってりと
した印象になってしまいます。
そのため、デザインとして「くびれ」を付けることで
スリムな印象を与えました。
これにより、スタイリッシュな印象を保ちながらも、
フック(耳)の付いている天井器具にも、対応できる
ようになりました。
問題2:高さ問題の解決
さて、最難関の「高さ」の問題です。
通常の天井器具は、数ミリ単位で高さがバラバラ。
埋込ローゼットにいたっては、数センチ単位で、
高さが異なります。
天井器具自体の高さが、物件によって変わるので、
低いソケットカバーじゃないと設置自体ができなか
ったり、逆に低いソケットカバーを標準にすると、
天井との間に隙間ができてしまったりします。
これらの高さの異なる天井器具に対応できるような
工夫をしなくてはいけません。
これには、照明メーカーさんとともに、何度も試作を
重ね、解決策を見出すのに、非常に時間がかかりました。
期間にして、約1年半。
試作バージョンは、10回を超えました。
長い期間をかけて、見出した結論は「ソケット部分に
可変の仕組みを取り入れる」という方法でした。
この「高さ可変ソケット」を作ったことで、天井器具
の高さが異なる問題にも対応が可能になりました。
天井器具の高さがあるときには、こんな風にソケット
の位置を低めに設定すれば、ぴったりと天井に付きます。
天井器具の高さが低い時には、こんな風にソケットの
位置を高めに設定すれば、ぴったりと天井に付きます。
また、古い物件で使われている旧タイプの天井器具の
場合は「数ミリ単位の高さが新しい天井器具と異なる」
という問題が発生します。
これにも頭を悩ませましたが、最終的には、専用の
「ゴム製スペーサー」なるものを作りました。
1mmタイプと、5mmタイプの2種類です。
この「ゴム製スペーサー」と「高さ可変ソケット」を
組み合わせて使うことによって、どんな高さの天井器具
にでも、フィットするようになったのです。
出来てしまえば、なんてことのない仕組みなのですが、
この答えにたどり着くまでに苦労しました。
照明メーカーさんもよく付き合っていただけたと
感謝しかありません。
ただ、この開発を行ったおかげで、いままでに無かった
「さまざまな天井器具にフィットするボール型照明」
を実現することができたのです。
「紙布(しふ)」を使ったデザインで、
シーリングライトに味わいを。
さて、最後に意匠性を高めたポイントです。
今回、シーリングライトのソケットカバーには
「紙布(しふ)」という素材を採用しました。
紙布とは、機械抄きの和紙に、水分をなじませ、
薄くねじり、撚(よ)ったものです。
国内の専門工場にて作られる紙布(しふ)は、伝統的
な素材である和紙の風合いはそのままに、独自の技術
を加える事で、まるでラタンや網代のような自然素材
の風合いを表現しています。
この紙布(しふ)を、ソケットカバーになるように
整形し、裏紙を選定しました。
これにより、電気を消しているときには「工芸品」の
ような味わいのあるソケットカバーとなり、また、
灯りをつけているときには、紙布(しふ)の網目から
光がこぼれるように光るようにデザインしました。
リセノが提唱している「ナチュラルヴィンテージ」の
スタイリングには「ディテールアイテム」と総称する
味わいのあるアイテムを、インテリア内に散りばめる
という手法があります。
真鍮のソケットカバーも素敵なのですが、今回は、
さらに味わいを高めるために、よりディテール感の
強い素材を配することで、味わいのある照明に仕上
げることにしました。
白い天井に、ディテール感を感じる素材があるだけで
ダイニングから見たときの、美しさがあります。
普段は意識してみない場所ではありますが、そこに
まで気を配っているところが、素敵かなと思っています。
「ナチュラルヴィンテージ」スタイリングのメリットと、実践ポイントを紐解きます。
職人の手で作る「手吹きガラス」により、
軽量なガラスシェードを作りました。
また、ガラスのシェード部分も専用に開発し、軽量化
を図るために「機械式」ではなく、職人の手による
「マウスブロー」方式で、1つずつ成型しています。
通常の機械吹きで生成すると、全体的に均一な厚みの
ガラスシェードができるのですが、今回は厚みのある
部分と、薄い部分を作ることで、全体的に強度と軽さ
を両方実現しています。
とにかく手間のかかって出来上がった製品です。
こだわりを詰め込んだ「SHIF CEILING LIGHT」
2022年2月7日より予約発売を開始します。
というわけで、新作照明の企画経緯とコンセプト設計
を紐解きました。
かなりややこしい裏側の設計のお話になりましたので
どこまで書こうか悩みましたが、細やかな設計思想を
お伝えした方が、逆に分かりやすいかなと思って、
しっかりめに書いてみました。
このシーリングライトによって、リビングが柔らかな
光で照らされて、よりリラックスできる空間になる
ことを願っています。
ちなみに、この考えの根本として、リセノでは、
多灯照明でお部屋を照らすことを推奨しています。
暮らしにあった照明の選び方
落ち着きのある照明計画は、仕事や学校、家事終わり
にほっと一息つきたい夜を、ぐっと快適なものに
変えてくれます。
ぜひとも、自宅を素敵なバーような、週末のキャンプ
のような、ゆったりとリラックスできる空間にする為
のアイテムとして取り入れてもらえればと思います。
Re:CENO product|SHIF CEILING LIGHT