【蚤の市で見つけた偏愛品】
古道具の革細工
蚤の市で出会えた良きものを「戦利品」
と呼ぶのであれば、手ぶらで帰るこの状況は
「負け戦」ということになるのでしょうか。
そんな、ちょっと自虐的な足取りで向かったのは、
たまに立ち寄る小さな古道具屋。
慰めを求めて、ものが溢れる店内に目を配る。
いつもより、ちょっと丁寧に。
気を留めたのは、片隅の小さな革細工。
あまり見かけない形なうえに、
やたらと古びている。
漂う、圧倒的な唯一無二感。
どうやら、今日も何とか
良きものに出会えたようで。
古ぼけたレジカウンターの上に
その革細工を置くと、痩身の店主が
「あれ?」と怪訝に声をあげる。
「これ、近くにサイコロあったでしょ?」
はぁ、サイコロ。
確かに、並んで置いてありましたけども。
「これはね、サイコロとセットなの。
丁半博打で使われていた、ダイスカップなんだよね」
面白いでしょ?と黒縁眼鏡の奥が微笑んでいる。
なんだっけ、丁半博打。
いかついおじさん達がサイコロをカラコロやりながら、
「丁!」だの「半!」だの、声を荒げている光景が、
おぼろげに浮かんでくる。つられて、口角があがる。
確かに、古道具は面白い。
戦利品を持ち帰り、どうやって使うかなと眺めてみる。
染み付いているのは、賭事の御利益か。
はたまた、あぶく銭を溶かした怨念か。
くわばら、くわばら。
僕は真面目に、ペンでも立てておきましょうかね。