【おかえりカラー】そうだ、デンマークの椅子に触れよう。
8月某日。
「適度に運動した方が、良いんだって」
あっという間に臨月を迎えた妻が、
ボソッと話し始めます。
どうやら産婦人科の先生から
陣痛を促す目的で、運動を勧められたようです。
そして、お家で密かに、
スクワットを始めていたことを、
この時に知りました。
じゃあ散歩がてら、
気になっていた展覧会に行ってみない?
という僕のお誘いから、
夫婦でお出かけすることに。
ささっと支度を済ませて、
最寄り駅まで歩きます。
もちろん、歩くペースは妻に合わせて。
時々後ろを振り返っては、
距離が離れていないか、確認します。
( 置いてけぼりにしたら、
後で何を言われるかわかりませんので。。)
電車に乗って約40分。
僕たちは、上野駅に到着しました。
そして、今回の目的は、
東京都美術館で開催中の展覧会
「フィン・ユールとデンマークの椅子」
フィン・ユールは、デンマークの
インテリアデザイナーで、
僕がインテリア沼にハマった
きっかけになった人物です。
電車でふらっと行ける展覧会で
フィン・ユールに触れることができるなんて。
感激です。
最初に出迎えてくれたチェアとキャビネット。
あ、フィン・ユール展に来たな、
と、思わず感じてしまう、巧みな組み合わせです。
世界一美しいアームを持つ「イージーチェアNo.45」。
ユニークでありながら、美しさを追求した、
まさに究極のチェアだと思っています。
キャビネット引き出しのカラーリングも、
フィン・ユールの色使いを
ギュッと詰め込んだ配色になっています。
どうしましょ。
序盤からドキドキが止まりません。
すぐ隣には、デンマーク生まれのチェアたちが
ずらーっと並んでいます。
見たことがあるものもあれば、
始めましてのものまで。
妻も真剣に観察している様子。
どちらかと言えば、
インテリアに興味があるのは僕の方で、
妻は、新たなアイテムを部屋に取り入れる際に、
最終ジャッジをする係です。
例えば、僕が新しい照明を迎え入れたい時は、
その画像や機能性を伝えて、
「かわいいからOK」
「価格が高いからNG」
など、素直な意見を聞く、と言った感じです。
なので、妻が今回の展覧会を
楽しんでくれるどうかについては、
一抹の不安がありました。
そこで、妻に、
「どれが気になる?」と尋ねると、
「あれかな。でもあれもかわいい」と、
中々の好反応で、少し安心しました。
フィン・ユールは、
自身がデザインした椅子に座る際、
足を組んだり、時には肘掛けのアームに
足を乗せたりと、とてもリラックスして
使用しています。
その姿を見てからは、
「椅子の座り方は、自由で良いんだ」
と、心が解放された気持ちになって、
どんどん、椅子の魅力に
引き込まれたような気がします。
入り口でも出迎えてくれた、「No.45」。
改めて、ぐるっと一周して眺めて見ましたが、
どの角度から見ても、美しいフォルムです。
彫刻のように、丁寧に削られた木製アームですが、
継ぎ目を頼りに各パーツの形を想像すると、
その複雑さが分かります。
見れば見るほど、
触れたい。
座ってみたい。
よし、もう1周しよ。
そうこうする内に、
しびれを切らした妻は、
まるで公園をジョギングするかのように、
ツカツカと進んで行くのでした。
そして、今回の展覧会の中で一番楽しみにしていた、
フィン・ユールやデンマーク生まれの名作チェアを
実際に体感できるコーナーにやって来ました。
入るなり、憧れの椅子たちが並んでいて、
まさに夢のような空間。
「ほんとに座っていいのかな」と、
妻に2回確認するほどの、緊張感です。
そんな僕をよそに、タタタタっと
一直線に座りに行く妻。
「私、これ好きかも、かわいい」
ぺぺぺ、ペリカンチェア!?
背面から伸びた羽のようなアームが、
まるでペリカンのように見えることから、
そんな名前がついた、かわいらしい椅子です。
それにしても、妻が言う通り、
「かわいい」という表現がぴったりな椅子で、
羽が両サイドを覆ってくれる安心感も
ステキですよね。
どんどん試す妻を見て、
僕も勇気をもらいました。
よし、座るぞ。
まさか、フィン・ユールの代表作
「チーフテンチェア」に座れる日が来るとは。
「座れるものなら、座ってみな」
と、言わんばかりの圧倒的な存在感。
それでは、失礼します。
一丁前に足を組んでいますが、
内心ドキドキしていて、
ジェットコースターが降下する直前の
あのドキドキの状態です。
ふーっと深呼吸。
少し落ち着きました。
お気に入りの椅子に座った時の
ふわっと溢れ出る幸せな気持ち。
椅子好きな理由を簡単に言えば、
そこに尽きると思っています。
仕事を早く切り上げる理由の1つに、
「好きな椅子が待っているから」
という方がいらっしゃれば、
ぜひ、お友達になりませんか?
そして、3度目の登場、「No.45」。
ついに、ついに。
腰掛けます。
嬉しさ、興奮、とまどい。
いろんな感情が混ざってしまい、
よく分からない表情です。
1つ言えるのは、
インテリアを好きになった原点に
ようやく出会えた、という感動。
体の線に寄り添ってくれる
この椅子のように、
きっとこの体験が、
今後の糧になってくれるだろうと、
僕は信じています。
展覧会「フィン・ユールとデンマークの椅子」
貴重な体験をさせていただき、
ありがとうございました。
展覧会の図録とアートフレーム2点をお土産に、
大満足な1日となりました。
帰りの道中、
「子どもがおおきくなったら
美術館も一緒に楽しんでくれるかな?」
と、妻に尋ねます。
「んー、どうだろうね」
「本人が興味があればね、良いけどね」
確かに。妻の言う通り。
本人が好きじゃないものを、
押し付けたくはないという意見に、
僕も賛成です。
それでも。
物心がついて、展覧会の図録を見せた時に、
「これ、かわいいね」
と言って、
羽を広げた椅子を指さしてくれたら、
なんだか嬉しいなって、そうも思うのでした。
「ところでさ、私の服装、
前回のマタニティフォトと全く一緒だけどさ、
いいの?」
「あ、ほんまや」