【 晴れのち、キッチン 】
東向きの窓から見えた空
こだわりたい条件が多かったから
今の家に決めるまでは少し時間がかかった。
条件ボックスにたくさんチェックを入れて
半年くらい賃貸サイトをウロウロして。
駅近、セパレート、2口コンロ。
オートロックが安心だし、
きれいな独立洗面台もほしい。
だけど、なかなか良い物件が見つからないから
しぶしぶ窓の方角だけ我慢することに。
南向きがよかった私は、
いま東向きのお部屋に住んでいます。
実際に暮らしてみると不便はなくって
「まぁ、ぼちぼち」といった感じ。
おうちで撮影をしていると
暗くなるのが早い気がするけど、
それは職業柄気になるだけで
普通に暮らしている分には大丈夫。
それでも、
「お部屋の中でイマイチだと思うところは?」
という、とあるアンケートには
「東向きの窓」
と答えてしまう。
そんなある日、仕事で早起きをすることに。
朝に弱い+寒がり の私は
秋冬の朝がめっぽうダメだけど、
この日ばかりは頑張りました。
いつもより早く目覚ましが鳴って
2回目で止めて、のそのそと体を起こす。
すると、お部屋に不思議な現象が。
まだ夜かと思うくらい暗いのに、
窓の外だけボワ〜っと橙色に光っています。
「??」
寝起きの頭が追いつかなくて
何がなんだかわからないまま
窓を開けます。
冷えた夜空に、朝が溶け込んだような
グラデーション。
そこには、オレンジ色の朝焼けが
広がっていました。
しばらくぼうっと眺めていると
静かな街に、ガタンゴトン...と
電車の音が響いていて。
すうっと、冬の朝のにおいがします。
起きたてのまっさらな頭と心に
目から、耳から、鼻から入ってくる
その光景はあまりに綺麗で、圧巻で...。
「冬は空気が澄んでいるから、星がきれい」
と言うけれど、きっと朝焼けも同じです。
まだ暗いお部屋の中、照明をぽつりとつける。
フロアライトの灯りと、
カーテンから漏れる光の色は同じ。
はじめて知ったお部屋の景色です。
なんだか神秘的な時間をひとりじめしたような
ちょっぴり贅沢な気分...。
朝ごはんに昨日つくったシチューを食べて
ポカポカしたまま、駅へ向かう。
身支度をしている間に日は昇り、
あのオレンジの時間が夢だったのかと思うほど
街はすっかり朝の色。
ホームにつくと、いつも見かけない人たちが
電車を待っています。
この人たちも、あの朝焼けを見たのかなぁ
なんて考えながら、白い息を吐く。
私、これからお部屋の好きなところを聞かれたら
朝焼けが見える「東向きの窓」だと言おう。
ゆらゆら。ゆらゆら。
電車に乗って、職場へ向かう。