【 晴れのち、キッチン 】
おばあちゃんのギザギザ卵と、ハンバーグ
「今晩は、元気ですか、
今日は寒いね、身体にきおつけてね、」
心配性な祖母から、たまに届く一通のメール。
携帯の操作が苦手だからか
いつも「、」で終わる文章に
なんだか温かい気持ちになる。
きっと、時間をかけて打ってくれたのだと思う。
幼い頃から祖母と過ごすことが多かった私は
昔も今も、おばあちゃんっ子。
毎週金曜日は祖母の家から
ピアノのレッスンに通っていました。
先生の家までは、歩いて10分くらい。
坂道を下って、公園をきゅっと
曲がったところ。
そんなに遠くはなかったけれど
危ないからといつも送り迎えを
してくれました。
レッスンが終わると
祖母が先生の家の前で待っていて
「今日はこの曲が合格した!」とか、
「晩ごはん何〜?」なんて話しながら
手を繋いで帰ったのを、覚えています。
私が一度好きだと言ったお菓子を
毎週のように買っておいてくれていて、
夜は一緒においしいごはんを食べる。
思い出すだけでも心がじんわりする、
そんな金曜日の夕暮れ時が
週に一度の楽しみでした。
何でもおいしい祖母のごはんで
特に好きなのは、
肉じゃがと煮込みハンバーグ。
ひとり暮らしをしていると、
そんな懐かしい味が
ふと恋しくなるときがあります。
そういえば、ずっと前に
煮込みハンバーグのレシピを
教えてもらっていたはず。
よし、今夜は煮込みハンバーグにしよう。
...と、レシピを見つけ出したは良いものの
メモしていたのは、材料と分量のみ。
作り方をメモしていないのは
祖母から料理を教えてもらえることが嬉しくって、
なぜか忘れない自信があったから。
(それでも一応書いておこうよ...と今なら思います笑)
根拠のない自信だけど、実際その通りで
にんじんの切る大きさも、混ぜる順番も
あのときの映像といっしょに
しっかりと覚えています。
もう何年も前のことなのに、不思議です。
そして、思い出したのは
このレシピを教えてもらったときのこと。
付け合わせのゆで卵を
祖母はよくギザギザに切っていて、
これができると料理上手に
なれる気がしていました。
そういえば、飾り切りは大人になった今も好きで
野菜を切るときに、よくします。
いま考えてみると、あのころ憧れた
祖母の姿がきっかけなのかも。
ぽつりぽつりと懐かしい記憶をたどりながら
無事に出来上がった、煮込みハンバーグ。
食べてみるとおいしいけれど
なんだか少し違う...。
祖母が作ったものは
もっとこう、ほろほろしていて
味もジュワ〜っとしてるんだけどなぁ。
料理上手な祖母のようになれるのは
まだまだ先ということかもしれません。
煮込みハンバーグ、作ってよかったな。
匂いが記憶につながるように
料理をしている時間も、味も、こうして
ふと振り返るきっかけになる。
気づけば大人になっていて、
金曜日の夕方に祖母の家へ
行くこともなくなりました。
ピアノもたまにしか弾かなくなって、
今はお仕事のカメラに夢中です。
だけど、あのときの料理はそのままで
それを作ったり食べたりするだけで
なにか大事なことは忘れずにいられる気がします。
毎日があっという間に過ぎていくのは
とてもありがたいことだけれど、
たまには立ち止まって
後ろを振り返る時間も大事ですよね。
祖母に教えてもらったレシピや、思い出の味。
大切な人が美味しいと言ってくれた料理。
ネットで見つける「簡単レシピ」だけじゃなくて
そんな、あたたかなレシピを
これから少しずつ増やしていきたいと思います。
今夜はおばあちゃんに電話しよう。
ハンバーグ作ったよって言ったら
なんて言うかな。
「ちゃんと野菜も食べたんか?」って
心配してくれるんだろうなぁ。