【ひとり、静かに。】言葉を綴る。
ある街の、優しさについて。
さりげなく、けれど着実に、春の気配が香る3月。
海の見える、坂の多い街へ行きました。
きっかけは、タイトルに惹かれ手に取った
とある一冊の本。
深夜、ある街の片隅で
古本屋を営む店主の随筆集。
軽やかで、可笑しくて、切実な文章に、
気づけば、夢中になって頁をめくる自分がいて。
1章を読み終える頃には、清々しいほど自然と
この街への旅を、心に決めていました。
............
3月某日。晴れ。
広島県、尾道。
からし色の列車に揺られ、辿り着いた
海の見える、坂の多い街。
潮の香りが、鼻の奥に漂って、
なぜか無性に、懐かしい気持ちに襲われた。
細い路地を抜け、坂道を登った先には
夕焼けに淡く染まる、美しい街並みが在る。
どこまでも穏やかで、
どこまでも風通しの良い街だ。
釣り人を横目に、夜の海辺を歩くと、
汐風が柔らかく頬を撫でて、
よく来たねと、迎え入れてくれた気がした。
静かな海は、まるで
旅人をかくまうかのように優しい。
街の人々はあたたかく、
流れ着いた者にも、等しく愛情をくれた。
坂道の途中で咲いていた、水仙。
一人になりたくて此処へ来たはずなのに、
受け入れられたことに
ほっとしている自分が居る。
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美しい光も、もらった優しさも、
全てを心に留めておきたくて、
滞在中に綴った文章。
旅のきっかけになった古本屋。著者であり店主の藤井さんに、ちゃっかりとサインをいただきました。
この日記を開く度、私はきっと、
穏やかで優しい街の風景を まなうらに思い描く。